シクラメン
プルルルル
携帯が鳴った。
時計を見るともう23時半、こんな時間に誰だろうと思いつつ、電話をとった。
「もしもし、私よ、彩子」
愛しの声に、私はビクリとした。
「ねぇ、今から出てこれない?私、望の家の下にいるんだけど」
そう言われて、窓から外を見てみた。
確かに彩子はそこに居た。
寒そうにしている。
「見つけたよ、寒いだろ、今すぐ行くから待ってて」
私は慌てて、彩子の元へと急いだ。
「ごめんね〜こんなに寒いところ、出てきてもらって」
彩子は私を見るなり謝ってきた。
寒いのか、震えている様子だった。
「彩子、これ着てな」
そう言って、私はコートを彩子に掛けた。
そして、そっと彩子を抱きしめた。
「ところで、どうしたんだ?今日は」
彩子は笑い出した。
私が戸惑っていると、彩子は、私にキスした。
軽く唇に触れるだけの、フレンチ・キス。
「望ったら、まさか、24時が来たら、何の日か何て分かってないんでしょう?」
なんだろう・・・明日か・・・
困った顔をしていたら、彩子はため息を漏らした。
「まぁ0時になったら教えてあげるわよ」
意地悪そうな顔でそう言った。
「そうね・・・それまで寒いから、このままでいましょう」
彩子を抱きしめる腕に力が入る。
お互いの熱で温めあった。
そして、時間になった。
「ハッピーバースディ!望!!」
ハッとする、そうだ、今日は私の誕生日じゃないか!
すっかり忘れていた。
彩子は覚えていてくれたみたいで、こんな寒い中訪ねてきてくれたんだ。
目の前にいる女性を、今までにないほど、愛おしく感じた。
「はい、プレゼントよ、望にぴったりな、シクラメンの花束よ」
シクラメン・・・彩子は花言葉知っているのだろうか・・・
「シクラメンの花言葉は、内気な心、でしょ?」
知っていたんだ・・・
それにそのシクラメンをプレゼントしたということは私が内気ということに気がついてたんだ、彩子は。
「彩子には勝てないな」
そう言って、シクラメンの花束を受け取った。
そして、片腕で、彩子を抱きしめた。
彩子は、そっと私にキスした。
そして耳元で囁く
「愛してるわ・・・望、あなたが生まれてきてくれてありがとう」
普段は神様なんて信じない私も、生まれてきたこと、彩子と出会えたことに関しては、感謝していた。
「少し、歩いて、小さな公園にでも行かない?」
彩子が問いかけた。
「いいよ」
彩子は私の手をとって、歩き出した。
手のぬくもりが伝わってくる。
気がついたら、手を握り返していた。
公園についたら、とりあえず、ベンチに座った。
「彩子、寒いでしょ?」
そう言って、私は、彩子の肩に腕を回した。
そして、彩子の顔を、私の顔に近づけた。
マフラーも彩子の首にも巻いた。
密着しているので私はドキドキが止まらなかった。
真っ白いシクラメン。
花を見つめていると、彩子が私の顔を振り向かせた。
そして、唇を重ねてきた。
「彩子・・・」
長いキスをした。
私は全身の力が抜けていくのを感じた。
けど
「今日はここまでね、こんなところでするわけには行かないからね」
彩子が離れた。
私は彩子を抱きしめた。
強く・・・彩子が壊れるかと思うくらい。
「望の広い背中が好き・・・頼れるもの」
「彩子・・・」
私は勇気を振り絞って
「好きだよ・・・彩子のこと、誰よりも、そう、どんな人よりも、彩子だけを愛してる」
彩子は、私の顔を見つめた。
そして耳元で
「私も愛してるよ・・・望。いっそめちゃくちゃにしたいくらい好き、こうしてるだけで、理性が吹き飛びそうになるわ」
慌てて、腕を振りほどいた、しかし、彩子が離れない。
そして、彩子は私にまたキスした。
「せっかくだけど、また続きは今度ね、楽しみにしててね」
ちょっと意地悪っぽく彩子はそう告げた。
「ああ、もうこんな時間!ねぇ望・・・起きたら、昼ごろから会えるかな?ふたりきりになりたい・・・」
彩子は我慢できなさそうにそう伝えた。
私も彩子に抱かれたかったので、
「いいよ、1時に彩子の家に行くよ」
と答えた。
そして、会ってからされることをちょっと想像してしまい、体が少しだけ熱くなった。
「もうしばらく、こうしていたいけど、ダメね。帰りましょう」
「送っていくよ」
私はそう言って、彩子の手を取り歩き出した。
家につくと、帰り際に彩子は私の耳元で囁いた。
「楽しみにしててね。いっぱい愛してあげるから」
私はまた体が熱くなるのを感じた。
名残惜しいけど、彩子と別れ、私も家に帰った。
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