OCEAN

紐緒さんは、18歳になると、すぐに、車の免許をとった。

そうして、中古で買った車に乗ってる。

もちろん、サイドシートは、私専用なの。



今日は海に向かって走ってる。

冬だから、泳ぐことはできないけど、お互いなんとなく海が見たくなって、こうして走ってる。

今日は寒いけど天気がいいの。

日向は多分暖かいと思う。



「着いたわよ」

紐緒さんが言う。

到着して、早速日向に移動。

太陽の光を浴びて、私は笑顔を見せた。

紐緒さんも光を浴びていた。



「ねえ、紐緒さん、少しここに座らない?」

そう言うと、私は座り込んだ。

紐緒さんもそれに続いた。

私は紐緒さんの肩に寄りかかった。

こうしてると、海に抱かれているような気分になる。

大きな大きなその波で、抱きしめてくれている・・・

海に来てよかったと私は思った。



「ねぇ、紐緒さんは、どうして海に来たかったの?」

そう尋ねた。

「そうね、何でかしら?研究のほうがスランプだからかもしれないわ」

「紐緒さんでもスランプなんてあるんだ」

紐緒さんは海を見つめている。

波が二人を抱きしめていた。



私の中にある紐緒さんへの想い。

ぶつけたくて、知って欲しくて、私から紐緒さんを抱きしめた。

「好き、紐緒さん、大好き!」

知らぬ間に涙がこぼれ落ちてきた。

こみ上げてくる感情に勝てずに、紐緒さんの胸で泣いてしまった。

でも決して抱きしめた手は離さずにいた。

紐緒さんは抱きしめ返してくれた。

暖かく、もう、これ以上、私が切なくならなくていいように。

たとえ嵐が来たって平気。

紐緒さんがいるから・・・

ずっと傍にいてくれるから・・・

色んなステップを踏んで今私達はここにいる。

苦しいこともあったし、辛いこともあった。

けれど、今こうして、紐緒さんと二人でいる。

抱きしめあっている。

これが答えなんだと素直に感じられた。

海を見てると何もかも許されそうな・・・そんな気がした。



紐緒さんと私、もちろん別人なのだから、考え方も捉え方も違う。

けど、うまく融合して、今こうして一緒にいる。

喧嘩するときもあるけど、自分の想いをぶつけて、紐緒さんの思いも受け止めて、初めてお互いを知るのだと思った。

そうして、私達はどうして生きていっていいのか考えさせられた。

海は偉大だ。

スケールが違う。

将来のことまで考えさせられる。



抱き合ってると、紐緒さんが微かに震えている。

どうしたんだろう?顔を見てみるとなんと紐緒さんが泣いている。

そんな紐緒さん見てたら・・・

チュ

触れるだけのキスをした。

「ねぇ、紐緒さん、海って不思議ね。人間の本心を暴かれるような・・・そんな感じがする」

「海見てると、自分の心に嘘つけなくなるよね」

そう言って、紐緒さんの涙を指で拭った。

今まで多分ずっと、私の居ないところで泣いていたのかな・・・

でももういいんだよ、泣きたいときは私の胸で泣いてね・・・

何もかも分かち合っていきたいから。

だから、怖がらないで、恐れないで、素顔の心を私に見せてよ。

紐緒さんのこともっと知りたいんだから。

何だか今日は紐緒さんの心に直接触れた気がした。



そうして、果てしない海のごとく広い想いを伝えたかった。

今まで交わした言葉、その声は海に響く。

季節が巡っても私達はずっと仲良く歩めるはず。

だから、紐緒さん、自分の感情から逃げないでね。

私の前ではどんな紐緒さんでも大丈夫、全部受け止めてあげるから。

抱きしめる手に力がこもる。

逆に紐緒さんは力が入らない様子だ。

顔を見ると、また泣いていた・・・

「うん、紐緒さん、好きなだけ泣いていいよ、私が全部受け止めるから、安心してね、紐緒さん」

「沙希!」

紐緒さんの腕に力がこもる。

紐緒さんは流れる涙に戸惑いながら、こう話した。

「ただ、海を見ただけなのに、私の心は素直になるの。沙希への想いも強くなって・・・」

「うんうん」

「ただただ、素直になっちゃうの・・・」

私は目を閉じた。

紐緒さんの想いを一気に受け止めたから。

だから、

「海に誓おうよ、ずっとずっと、私達愛し続けるって。離れないって」

そう言うと、紐緒さんは、私にキスしてきた。

二人の想いが溶け合っていく。

紐緒さんの想いが、ひしひしと伝わってくる。

私も想い込めて、紐緒さんのキスに対応した。



そして、離れると、二人は空を見上げた。

どこまでも広い、空。

海も広いけど、空はもっと広いね。

そして私達の絆も広いんだよ・・・



そして、空にも誓った、ずっと二人で仲良くいるってことを。

広い広い海と空に抱かれて、熱いものが込み上げる。

私から紐緒さんにキスした。

誓いのキス。

もう二人は絶対に離れませんって、空と海に投げかけた。